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January 29, 2008

チキン・ラン

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日本では、みのもんたが
「奥さん、ブルーベリーが目にいいんだってよ。旦那や子供に食べさせなさい」
と発言すると、次の日スーパーの棚からブルーベリーが消えるらしい。

このような現象は日本だけかと思っていたら、ここイギリスでも、
「すわ、みのもんた現象!?」
と思うような事が起こった。

年が明けてすぐに、チャンネル4は一週間にわたり「イギリスのチキン産業」に関する特別番組を放送した。

仕掛け人はセレブリティ・シェフ(この言い方もなんだかねえ)のHugh Fearnley-Whittingstall。
英国南西部ドーセットで自給自足に近い生活をし、その暮らしぶりはRiver Cottageという番組で紹介されている。
(夫も私もこの番組の大ファン。ちなみに昨年の夫へのクリスマスプレゼントは、ヒューの“Fish”という本だった。)

私もかねがね、スーパーにずらりと所狭しと並ぶチキンを見て、不思議に思っていた一人である。
(イギリスのスーパーは魚売り場が小さい代わりに、肉売り場の面積がとても広い。特にチキンは英国民の好物で、消費量も日本の比ではないと思われる)
いくら国民食だとは言っても、毎日、イギリス国内全てのスーパーマーケットにこれだけの数のチキンを供給できるって、すごいことだ。
しかも安いものは2羽で5ポンドとか、これまた信じられないお値段。
いったいどうすれば可能なのか。

疑問に思いつつも、からくりは分かるような気がした。
狭い場所にできるだけ押し込められ、最も安い化学飼料を与えられ、効率性を最優先した「チキン・ファクトリー」で大量生産された鶏たちが毎日毎日、市場に出回るのだろう。

という訳で、4夜連続でヒューがイギリスのチキン産業の実態に迫る番組を、興味深く観た。
大方は、予想したとおりのものだったが、「動物」ではなく、「商品」として扱われているチキン生産の実態は想像を超え、思わず目を覆いたくなるような場面も。

通常、チキン・ファクトリーはスーパーマーケットとの契約農家が経営しており、ヒューの「チキン・ラン」キャンペーンは結果的にスーパーマーケットの方針に批判的な要素を帯びることとなる。

番組の3日目に、ジェイミー・オリバーが登場した。
自己の名声を上手に利用し、プロセスフードばかりだった学校給食を変えたり、イギリス人の食に関する意識改革に成功している「社会派シェフ」ジェイミー。
オーガニック好きでもあるし、ヒューの運動に賛同するのは当然だとしても、問題がある。

ジェイミーは大手スーパーマーケット「センズベリーズ」の広告塔であること。

センズベリーズから彼には、毎年数百万ポンド(数億円)の契約金が支払われているに違いない。
美味しいクライアントを捨ててまで、ヒューの運動に賛同するのだろうか。下世話な私は興味津々。
大量生産用のチキン小屋を見学したジェイミーは、
「これはひどいな・・・ 君に協力するよ」
と約束し、現場を去った。

で、金曜のジェイミーの番組に続くわけだが。
月曜から木曜まで、ヒューの「チキン・ラン」が放送された後、金曜はジェイミーの司会で、スタジオに視聴者や業界関係者を招き、「イギリスのチキン産業改革」に関する大プレゼンテーションが行われた。

これが凄かった。
2時間(くらいだったかな)、時折ビデオを織り交ぜたり、現物のチキンやひよこを見せたりしながら、ジェイミーがしゃべるしゃべる。“Naked Chef”の時と同じ弾丸トーク。
しゃべくっていたと思っていたら、気がつくと鬼のような包丁さばきで料理までしている。おい君、さっき生きている鶏を触っていたが、いつ手を洗ったんだ。

あまりに密度の濃さに、テレビを見ているだけでも疲れたが、あれだけの仕切りを見せたジェイミー、見事という他ない。

ちなみに、スーパーのチキンにもヒエラルキーがあり、一羽2.5ポンドのものからフリーレンジ、オーガニックと値段が当然のごとく高くなる。
最高値のチキンは安いものの3~4倍、下手すれば5倍くらいの値の開きがある。

ヒューの番組が放映されている間、新聞では
「安いチキンを市場から追い出して、フリーレンジやオーガニックチキンだけになったら、それを買う金銭的余裕のない家庭はどうなる。チキンを食べるなということか。またチキン農家を廃業に追いやるのか。」
と批判的な意見も書かれていた。

確かにそれもそうだな…と思っていたが、私が感心したジェイミーの折衷案は、
「ぎゅうぎゅうに詰め込まれた飼育小屋ではなく、ある程度運動ができる位のスペースがある小屋」で育てたチキンを市場の主流にする、という事だった。
確かに動く隙間もない鳥小屋よりも、遊ぶスペースのある小屋で育っているチキンはずっと幸せそうだった。
このように育てたチキンは、もちろん現在の最安値のチキンよりは高くなるが、それでも一羽1ポンド程度の上乗せで販売できるという。(実際、すでに多くのスーパーマーケットがこの方法で育てたチキンも販売しており、チキン・ヒエラルキーの下から2番目位の位置だろうか)
会場にいた多くの人が、
「1ポンド高くても、ハッピーなチキンを選ぶ」
と答えていた。

そしてクライマックス。ジェイミーは、スーパーマーケットの代表も会場に招待していた。
あえてスーパーマーケットの罪には触れず、各代表に、より健康的な鶏や卵を販売しようとする取り組みを語らせるあたり、出来試合という感じもしたが、まあこれだけキャンペーンをすれば十分ということだろう。
結果的に、スーパーマーケットも自社のポジティブな姿勢を宣伝し、「イギリスの食生活を改善する一員」として世間にアピールすることができた。
ああジェイミー、誰も敵に回さず、なんという如才なさ。

10代でレストラン修行を始め、ワーキングクラスの英語を話すジェイミー。片やイートン校、オックスフォード大卒で、「インテリ」のイメージが強いヒューとは対象的なイメージもあるが、ジェイミーの企画力、実行力、プレゼン能力があれば大学に行ったとしても、ビジネスを始めていたとしても、それぞれの世界で大成功していただろうな、と思わせる、今回も凄い手腕だった。

結果的にジェイミーに全部美味しいところをもっていかれた感じのヒューだったが、それでもヒューの朴訥とした雰囲気、私は大好きなんですけどね。

この番組の後、スーパーに行くとなんとオーガニックの卵が品切れになっていた。
まさか番組の影響で?と思ったが、他のスーパーもチェックしてウラをとる根性はなかったし、その後は安定供給が続いているので、ただの偶然かもしれません、て中途半端なオチですいません。

投稿者 lib : January 29, 2008 12:51 PM

コメント

残念。その番組を見たかった。いつもスーパーでなんでチキンの値段がこうも違うのかと疑問に思っていました。まあ、多分、商品!!という考え方で、成長ホルモンは使わないだろうけど、早く成長させ、手間ひまをかけないチキンが安いのは、イメージ出来るけど、やはり目で確かめたかったです。
私もハッピーなチキンが好き!しかし、ジェーミーのしゃべり方がどうーも舌足らずでイライラする私は、あのFワードのラムジーが好きです。ココ

投稿者 coco : February 2, 2008 05:05 PM

なんでも、生まれてから1ヶ月以内(日数うろおぼえですが)で市場に出荷できる、すごーく成長の早い品種の鶏を、戦後アメリカから輸入したそうです。戦後の食糧難をこの品種が救ったそうですが、そのままイギリスに残ったそうです。
輸入した人の孫が登場して、「今の様な状況は予想しなかった」 と言い訳?してました。

ラムジーも番宣ではちらっと顔を見せていたような気がするけど、本編には登場しなかったような。。。
そういえばゲスト出演していた‘The Office’のリッキー・ジャーヴィスが
「シェフとしてはラムジーの方が上かもしれないけれど、人間としては君の方が上だ」
みたいな発言をしていましたけど、これってジェイミー的には非常にビミョーなのでは。。。。と笑えたし、いろんな意味で面白い番組でした。再放送するといいですねえ。

投稿者 子育てママ : February 4, 2008 11:12 AM

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