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August 22, 2005
出産も「あなた次第」?2 怒涛のエマージェンシー・コールLiBホームページへ
いよいよ本番だ。夫がミッドワイフに、「あと何時間位で出産できるだろうか?」と聞いたが、彼女は「そんなの私にはわからないわよ。産むのは彼女なんだしぃ~」と気のない返事だった。この時から嫌な予感はしたが、彼女は案の定あまり協力的でなく、いきむタイミングを教えてくれるでもなく、苦しむ私を励ますでもなく、壁の側に立って「まだかしらね~」などと言いながら人ごとのように、ただ傍観しているような人だった。
いよいよ、いつ生まれてもいいという段階になっても、赤ん坊はなかなか出てこなかった。私がうまくいきめなかったのだ。
「なんで出ないのかしら・・・。彼女、ちょっと弱いんじゃない?」
それまでにもいろいろ傷つくことを言われたが、この一言は痛さと疲れで消耗しきっている私にとどめの一撃を見舞った。確かに体力がある方ではないし、40にもう少しで手が届こうというのに、子供を産もうなんて考えた私がいけなかったんだ・・・と自分を責める気分にまでなってしまった。ミッドワイフの嫌気のさした表情と、私の後ろ向きな気持ち、そして何もできずにおろおろする夫で分娩室内は前にも後ろにも進まない、煮詰まった空気が充満していた。
病院入りから3時間が経過した頃。ミッドワイフがマンネリ化した空気を打ち破るように言った。
「そこまで見えてるんだけどねえ・・・破水させようか?」
そういえば痛さで忘れていたが、破水というやつがまだだった。未経験なのでそれがどんなものかもよくわからなかったが。ミッドワイフは、何か針のようなもので、ぷちっと胎児の入っている袋を破ったようだった。
その時だった。
ミッドワイフが何かを早口で叫び、一気に室内に緊迫感が走った。私自身は疲労と痛みで頭が朦朧とし、もはや事情がよく飲み込めない状態になっていたが、何か大変なことが起こったらしい、ということだけはわかった。
「早く!エマージェンシーボタンを押して!」ミッドワイフが夫に指示している。
「えっ。ど、どれ?どのボタン?」
夫は目を白黒させながら、赤のボタンだ青のボタンだと、私の頭上でパニクっている。
「緑のボタンよーーーーーーっ!」
ミッドワイフが雄叫びが部屋中にこだまし、夫も正しいボタンを押せたらしい。
僅かその数秒後だったような気がする。ドアがバタンと大きく開き、エマージェンシー隊の数人が手に手に機器を抱えてどどどーーっと部屋に押し寄せて来た。
その中のチーフらしい女性が私に駆け寄った。「私はミッドワイフのジェリよ!ここから私が引き継ぎます!」
こんな緊急時でも律儀に自己紹介するものらしい。変なことに関心しながらも、私は自己紹介を返す余裕があるはずもなく、「へええ・・・」と力のない声を発するのが精一杯。
「さあ、力いっぱいプッシュして!1,2,3!」
ジュリが私をリードし始めた。その途端、彼女は今までのミッドワイフとは全然違うことに私は気づいた。リードの仕方がまるで違う。「この人となら産めるかも・・・」そう思った。そして、何か大変なことが勃発したらしいにもかかわらず、「これで助かった。」と息もたえだえな私は確信したのである。(続く)
投稿者 lib : August 22, 2005 06:57 PM