« 夏も終わりに | メイン | 産後の入院 その1 »
September 08, 2005
通勤電車
郊外の町に住んでいる。シティにある会社まで通勤時間は約1時間だ。
毎朝、同じ時間の電車を待つ、同じ顔ぶれがロンドン方面行きのプラットフォームに並ぶ。
この顔ぶれの中には数軒先に住む男の人がいるのだが、何年もの間、家から駅まで同じ道のりを同時刻に歩きながらも挨拶をしたことはなかった。誰かの紹介がないと、お近づきにはならないという、イギリスの典型的な人間関係である。
が、この人の奥さんが異様にフレンドリーな人で、ある日、通りかかった見知らぬ私に急に話しかけてきた。天気がどうの、という話だったが、適当におしゃべりをした。
と、翌日から急にその人から朝の挨拶をされるようになったのだ。
妻の友達(?)なら、僕の友達(?)ということらしい。ただし、長い会話をするまでには至っていない。もちろん名前も知らないままである。
私が「タイムスの君」と呼んでいるのはロマンスグレー(死語)の男の人だ。端整な顔をして、長身のスーツ姿の品のいいイギリス紳士。なかなか素敵なおじさんである。語源の通り、いつも新聞はタイムス。
一度だけ、奥さんらしい女性と一緒に立っていた。若くはないが、エレガントな美人。なかなかお似合いのカップルだ。
少し年上ながら、心ひそかに憧れているのだが、映画のように何かのきっかけで話を始める・・・なんてことは起こらないだろう。だいたい一度も声を聞いたことがない。話してみれば、渋いハンサムな顔からは想像もつかない妙に甲高い声だったりして、百年の恋も覚める可能性もある。これはこのまま、そっとしておくのがいいに違いない。
古着屋「チャリティショップの女王」なのは、白髪のボサボサ頭にベレー帽をかぶっている女の人だ。年齢不詳の雰囲気だが、とりあえず50歳の半ばくらいか。色々な服を着てくるが、いつも着古された10年以上も流行遅れのものばかり。
よれよれのコートはあちこちのボタンが取れたままなのに平気。真っ黒に汚れた「白のエナメル」のバックはファスナーが壊れて全開だが、ここ3年くらい、このバックをご愛用されている。履いている靴は例外なく、すべて踵がつぶれている。
毎日、電車に乗ってくるから、どこかで働いているのだろうと思うのだが、どうしてここまで貧乏臭いのか?
帰り道で見かけたことがある。チャリティショップの中の品物を真剣な表情で物色していた。できれば早く新しいバックを買って欲しい。
さて、私はどう思われているのだろう?
私は毎日、朝シャンをするのだが、髪を乾かさずにそのまま出勤する。ドライヤーを使うと熱風で髪が傷むと信じているからだ。ま、時間がないせいもある。1時間後に会社に着く迄には乾いているのだが、プラットフォームに立つ頃はまだしっかり濡れている。
これは真冬も同じ。
(あのオリエンタルの女、冬でも濡れた髪で吹きさらしのプラットフォームに立っている。風邪をひかないのだろうか? 見ているだけで、こちらまで寒くなる。せめて冬の間だけでも、髪を乾かしてくれたらいいのに)
きっと、そう思われているに違いない。
続く
投稿者 lib : September 8, 2005 01:46 PM