September 11, 2005
産後の入院 その1
無事に出産が終わり、私はシャワーを浴びると、ジュリに病室に案内された。
「ちょうど二人部屋が空いているからそこに入れてあげるわ。大部屋だといつも誰かの赤ちゃんが泣いているし、落ち着かないからね。」本当にいい人だ。
病室勤務のナースとバトンタッチし、「じゃあこれで。私は夜勤だから明日の朝は会わないかもしれないけど・・・」と言い部屋を去ろうとするジュリに、私は百万回でも頭を下げたい気分だった。この人のおかげで母子共に元気に出産ができたのだ。
今度の担当のナースは中国系の人だった。と、だしぬけに「あなたは母乳?それとも粉ミルク?」と聞かれた。
また「あなた次第」だな、と思った。私は今まで、母乳が出るなら母乳で育て、粉ミルクは出ない場合や補足のために使うものだと思っていたが、この国ではどちらで育てるかは、母親が最初に「決定」するものらしい。そういえば病院のあちらこちらに「母乳で育てましょう」というキャッチフレーズのポスターやリーフレットを見かけたが、母乳が出るにも関わらず粉ミルク育児を選択する人が多いということだろうか。
とりあえず「母乳で育てます」と答えた。
赤ん坊は隣の透明なプラスティックのケースの中ですやすやと寝むっている。時刻は夜の12時頃だっただろう。そういえば昨晩は陣痛のため、殆ど寝られなかった。やれやれ、これで少しゆっくりできる。私もベッドに横たわった。
が。
私の試練はまだ終わらなかった。
ほどなくして赤ん坊が泣き出した。おろおろしていると、先ほどのナースがやってきて「私が見ていてあげるから、少し休みなさい。」と赤ん坊を抱き上げて、病室の外に連れ出してくれた。彼女が天使に見えた。
ほっとして、再びベッドに横たわる。
が。
世間はそれほど甘くはなかった。
うとうとしかけた頃、ナースが赤ん坊を連れて戻ってきた。少しぐずっているようだ。「お腹がすいているわ。こればっかりはマミーじゃないとできないから。」
しまった。さっき、「粉ミルクで」と答えておけば、そのまま面倒をみてくれていたのだろうか。しかし後悔してももう遅い。私は慣れない手つきで、赤ん坊に授乳し始めた。
ナースは部屋を出て行ってしまった。赤ん坊は一応おっぱいをくわえているが、母乳が出ているのか出ていないのかも分からないし、どうもコツが分からない。ふと見ると、ベッドの横にいくつのボタンのついたボードがついている。
これでベッドの上半分の角度を調節できるらしい。試しにボタンを押すと、グイーンと低い音を出しながら、ベッドが私の上半身と共にゆっくりと持ち上がった。
45度の位置で止めて再び授乳してみると、なかなか快適でいい感じだ。なんだ、ヴィクトリアンどころか、割と近代的じゃない。乳飲み子におっぱいをあげる自分の図に酔いながら、私は「母」になった実感を味わった。
が。
誤算だった。この後も、試練は続くのであった。(続く)
投稿者 lib : September 11, 2005 02:33 PM