August 05, 2008
Keep Your Mouth Shut
2年ほど前は言葉の発達が遅れていて、望んでもいないスピーチセラピーやヒアリング・テストに送られてしまった息子だったが、最近は
「ちょっと黙ってくれない?」
と思うほど、一日中喋っている。
親も遣わないような自然なネイティブ表現を遣ったり、私の発音を直してくれることもある。
無料の発音矯正だと思って、有難く直していただく。
親としては嬉しい限りだが、口が達者になってくると、困ることもある。
息子はレセプションクラスの友達の影響で、「小さなフットボールファン」になっている。
特に友達の一人のお父さんが筋金入りのアーセナル・ファンで、彼の息子の私服はいつも「アーセナル・シャツ」だ。
ちなみにイギリスにおける、「フットボールシャツ」の位置づけだが、ある日本語のガイドブックには
「フットボールシャツを着ているのはワーキング・クラスの人です。ミドル・クラスはまず着ません」
と書いてあった。
この定義が100%正しいかどうかは別として、まあ大阪で虎キチの親父が息子にタイガースのユニフォームを着せているようなもので、微笑ましいと思うことはあっても、「お洒落」とか「トレンディ」とか「洗練」いう世界とは別物である。
確かにフットボールシャツを着ている大人には、パイントのビールと怒声がよく似合う。
とまあ、要するにそういうものだし、フットボールにまるで興味のない私としては、まさか自分の息子にフットボールシャツを着せようとは夢にも思わなかった。
「僕もA(友達の名前)みたいにアーセナルのシャツが欲しい」
と言われても、
「はいはい、じゃあ今度探しておくからね~」
「お店で探したんだけど、見つからなかったわ~」
といつも適当にあしらっていた。
しかし先日、久しぶりに息子とセンターのショッピング街を歩いていると、スポーツ用品店を見て息子の足が止まった。
「このお店、見たい」
と言う。まあいいかと思って中に入っていった。
店内を一通り見回して、特に欲しいものも見当たらなかったので帰ろうとすると、息子がはっと気づいたように言った。
「ここならアーセナルのシャツを売っているかも」
やばいっ。確かに売っていそう。
「え~、売ってないと思うよ、ほら、どこにも見あたらないし…」
といつものようにごまかそうとすると、息子は勝手に店員のところに歩み寄って
“Do you have Arsenal Tops?”
などと聞いている。
(売ってないように、売ってないように…)と祈っていると店員は、
“Basement”
と答えているではないか。
嬉々としている息子に引きずられるようにして地階に行くと、売り場の一角に子供用のフットボールシャツのコーナーがあった。
(あちゃ~)
と思いながらも見てみると、一番下のサイズで7才用だ。
しめたとばかりに、
「ほら、大きいサイズしかないよ、君のサイズは無いね、残念だね~」
さっさと退散しようとしたが敵もさる者、息子はまた近くの店員に歩み寄って、
“Do you have Arsenal Tops for me?”
と勝手に聞いている。
(売ってないように、売ってないように…)とまたもや祈ったが、店員は息子のサイズの売り場に連れて行ってくれてしまった。
そこにはまさに、息子の捜し求めていた一品が…。
サイズもちょうど良さそうだ。
目を輝かせて私を見る息子。
うう…。フットボールシャツなんて着せたくないと思っていたが、息子が自分で店員に聞いて、探し当てた努力は買ってあげたい。
もう買わない言い訳も見つからないし逃げられそうにない。仕方ない、努力賞と思って買ってあげるか…
……と、シャツを手にとって、値札を見たとたんに気が変わった。
29.99ポンド?(約6千円)
自分の今来ているシャツより高いぞ。ワーキングクラス御用達(By日本語ガイドブック)のフットボールシャツってこんなに高いのか。いくらなんでもこんな金額を出したくない。
急に方針を変更して、息子に(半分)真実を伝えることにした。
「ちょっと高いね…マミー、今日お金持ってないから買えないわ。」
「カードは?」
(ちっ、小賢しくなりおって)「…カードも今日、忘れちゃったの、おほほ~」
と今度こそ本当に店から引き上げようとした。
出口に向かう途中、さっきフットボールシャツの場所を教えてくれた店員に会ってしまった。
手ぶらの息子を見て、
“You didn’t like it?”
と聞いてくる。
「サイズが合わなかったから~」と私が言うより先に、息子が
“Too expensive……”
と答えていた。言うなよ、おい!!!
明らかに失望した様子の息子、少し可愛そうかな、と思いつつ店を出て通りを歩いていたが、一難去ってまた一難。
フットボールシャツを売っている露店を息子が発見してしまった。
(あっ……)
と思った時には息子が
“Do you have Arsenal Tops?”
と聞いていた。
露天商は満面の微笑みで、息子のサイズを出してきた。
ハウマッチ?と聞くと、10ポンドだと言う。
“Mummy!! It's Only 10pounds!! It's Cheaper!!!!”
オックスフォードストリートの真ん中で息子に叫ばれた。
…もう面倒くさくなって買いました…。
露店で買ったシャツのラベルには、大きく“UNOFFICIAL”と書いてあった。
「フットボールシャツ」しかも「バッタもん」という、考えられる限り最悪のアイテムを購入するという結果になってしまったが、息子は嬉々として着ている。
しかも友達や親戚に会う時には特に、
「このシャツ見せたい」
と着たがるので、20ポンド程度をケチったがために私は
「バッタもんのフットボールシャツを息子に着せている母親」
として人々の脳裏に深く刻み込まれるのだ。
…息子が言葉を話せなかった頃が、少しだけ懐かしい。
(次週からホリデーのため、2週間お休みさせていただきます)
投稿者 lib : August 5, 2008 01:16 PM