長い歴史を持つ国には、現代人には理解し難い伝統があるものだ。イギリスもしかり。「何故なんだ、イギリス人!」と問いただしたくなるような伝統行事が、現代にもしっかりと受け継がれている。そのうちのいくつかをご紹介しよう。

1 . 世界変顔チャンピオンシップ

一部では、「世界一醜いスポーツ」とも称される「世界変顔チャンピオンシップ」。名称に「The World」と付いてはいるものの、開催されるのは北イングランドの湖水地方で、1年に1回のみ。

変顔チャンピオンシップは、「Egremont Crab Fair and Sports」イベントのプログラムの中に含まれ、このフェア自体は1267年から続く世界最古のフェアのひとつともいわれている。

どれだけの変顔が集まっているか興味があるという奇特な方は「The World Gurning Championships」でネット検索してみよう。

2. チーズ転がし祭り

春のバンクホリデーにグロースターチーズで有名なコッツウォルズのグロースターで行われる「チーズ転がし祭り」。正式な記録は残っていないものの、少なくとも200年は続いているといわれる。

転がる巨大なダブルグロスターチーズを追って、急な斜面を駆け降りるという単純なルールだが、チーズの速度は時速100キロを超え、毎年複数人の怪我人が出ることで知られる。 かすり傷程度では済まない場合も少なくなく、救急車がスタンバっている。参加者が多いためレースは何回かに分けて行われるが、怪我人がたくさん出ると待機している救急車が全て出払ってしまい、戻ってくるまで一時休憩となることもあるそうだ。

3. イラクサ早食いコンテスト

ドーセット州マーシュウッドにある「Bottle Inn」パブが主催する「イラクサ早食いコンテスト」。Bottle Innは18世紀から続く老舗のパブだが、コンテスト自体は1980年後半に始まった。

イラクサの枝から葉っぱをちぎり取って食べ、1時間で何本分の枝の葉っぱを食べたかを競うものだ。ご存知のようにイラクサには無数の細かい棘があり、触るのはもちろん、生で口に入れるのはもってのほかという人がほとんどだろう。しかし、2014年の優勝者は合計24メートル分の枝を丸裸にしたというから驚きだ。

ひとつのパブが始めたコンテストだが、イギリス国内ばかりでなく、今ではカナダやオーストラリアなど海外からの挑戦者もいる、知る人ぞ知る人気コンテストとなっている。

4. 市長の公開体重測定

市長の就任時、就任1年後、そして退任時に体重を測るという、中世から始まったこの不思議な “儀式” は、バッキンガムシャーのマーケットタウン、High Wycombeで今も粛々と行われている。

しかし、なにゆえに市長の体重を測るのか。

それは、一般市民の血税を使って私腹をこやし贅沢三昧で太っていないかを確認するためだという。観衆の前で測定後、測定士が「And no more!」と叫べば歓声が上がり、「And some more!」と叫ぶとブーイングが起きるという。しかし昔の市民はそんなに甘くなく、市長の体重が増えたとなると、腐ったトマトや果物を投げつけたという。憂さ晴らしにはうってつけ?

5. 麦わら熊フェスティバル

毎年1月、ケンブリッジ州のWhittleseaで行われる「麦わら熊フェスティバル」。その歴史は200年以上前までさかのぼる。
白羽の矢がたったパフォーマーは、30キロ以上もあるメタルにわらをくくりつけ熊をかたどったコスチュームを身につけないとならなかった。

1909年、真面目すぎる警察によって「物乞い行為」と認定されたことでその歴史に終止符を打つことになったが、Whittlesea Societyによって1980年にめでたく復活。英国中から、モリー、モリス、クロッグ、スウォードといった伝統的ダンスグループも参加し、わら熊たちと共に街を練り歩くフェスティバルは今も健在だ。

6. 愛妻運びレース

毎年3月、サリー州のドーキングで開催される「愛妻運びレース」。このスポーツ自体はヴァイキングが英国を侵略したAD800年頃が起源らしいが、英国で復活したのは2008年と、比較的新しいイベントだ。

世相を反映してか、運ぶのは妻に限らず、夫でも、友人でも、恋人でも、家族の一員でも、はたまた赤の他人でも構わないという。それぞれ15メートルの上り坂と下り坂を含む380メートルのレースはそれなりの危険を伴うため、注意事項などが書かれたインストラクションも用意されている。

完走者にはビールが配られるほか、優勝すると樽入りビールと、イギリス代表としてフィンランドの世界大会に出場する場合の費用の一部も提供される。ビリに終わったカップルの賞品は、ドッグフードと(ビリに相応しい!)ポットヌードル。申し出るのに躊躇する人もいるかもしれないが、完走者中で一番重い “ワイフ” を担いだ人には約500グラムのソーセージの特別賞も用意されている。

7. 泥沼シュノーケリング

なぜそんなことをするのか…という伝統行事が多い中、これはちょっと楽しそう?と思えるのが「泥沼シュノーケリング」。ウェールズの(発音不可能な)Llanwrtyd Wellsで1976年に始まった。1985年にはその名称に「世界選手権」が追加された。

ルールは簡単。シュノーケル、マスク、足ヒレをつけて、ストロークをせずに、合計110メートルのふたつの泥水コースを足ヒレを使ってひたすら進む。

2018年に世界記録を出したニール・ラター氏は、過去3回連続優勝している。一見ふざけた行事のようで、参加者は実は大真面目なのだ。

8. 燃焼タール入りバレル運び

ノーサンバーランド州アレンデールで、新年を祝うフェスティバルの一環として行われる「燃焼タール入りバレル運び」。地元民のみならず多くの観光客を集める、160年続く伝統行事だ。当日が雨でも風でも嵐でも必ず開催されるという。

地元から選ばれた45人の屈強な男たちがカラフルなコスチュームに身を包み、燃えさかるタールの入ったウィスキーバレルを頭に載せて村中を練り歩く。深夜24時になると、バレルは村の広場のボンファイヤに投入され新年の幕開けとなる。

残念なことに(?)ここにも安全衛生局の手が伸び、数年前からボンファイヤにはフェンスが張られることになってしまったが、今まで事故が起きたことは一度もないそうだ。