ブレグジットではギリギリまでEUと揉めに揉めたイギリス。しまいには子どものケンカ的な様相も呈していたが、完全離脱日は待ったなしで近づいてくるし、言い争いをしていても誰も得しないとどこかの誰かがやっと気づいたのか(あるいは「クリスマスにはしっかり休みたいし!」と思ったのか)、最後は駆け足的に通商・協力協定の署名にこぎつけた。

それとは対照的に、大きな障害もなく2020年の秋に大筋合意に至った日英通商協定。こちらは(一部の日本通イギリス人の間で失笑をかっていた)ブルーチーズ問題も軽く乗り越え、今年1月1日に正式に発行された。EUから独立したイギリスが一番最初に結んだ協定として、大きな意味があると言っていいだろう。

イギリスはこれを足がかりとして、環太平洋経済連隊協定(TPP)にも加盟の意思を示している。平民レベルでは、これまで何十年も日本側の片思いのように見えた日英関係。人間に例えたら「今まで憧れていたあの方が突然優しくなった…」という感じかもしれない。イギリスにしてみたら、EUに散々つれなくされ、周りを見渡したら見返り美人の日本がまだそこにいた、あるいは、少し歳を取ってきたら香水の匂いよりも炊き立てのご飯の匂いの方が魅力的に感じるようになったということか(まさか)。

日英包括的経済連携協定(CEPA)によって、イギリスで安く買えるようになるMade in Japan

CEPAでカバーされる分野は、テクノロジー関連、金融サービス、麦芽、フード&ドリンク、クリエイティブ産業と幅広い。日英貿易額が150億ポンドを超える増加も見込まれているという。
イギリスに工場を持つ日本の自動車や列車メーカーは、必要な日本製パーツを低い輸入関税で仕入れることが可能になる。それにより質の保証はもちろん、最終的な価格にもその恩恵が反映されると期待される。

生活に欠かせない醤油の値段はどうなるのか!

国際貿易省は日英間の協定締結後すぐに「この協定のおかげで、醤油が安くなるだろう」とツイートした。しかしこれはフライングだったようだ。日本EU間で醤油はすでに輸入関税ゼロとなっていた上、どこのスーパーでも見かけるようになったイギリスでも人気のキッコーマン醤油はオランダ製であることから、英EU間で通商・協力協定が結ばれなかったらブレグジット後はかえって今までより高い醤油を買わされるところだったかもしれない。危なかった!

今まで買えなかったMade in Japan

日本産ウイスキーは専門店を訪れなくともちらほら見かけるが、ここ何年かで世界のレベルに追いつけ追い越せの勢いで質を向上させてきた日本産ワインも、イギリスでの輸入・販売が可能になった。今後は山梨県産はもちろんのこと、長野県産や山形県産など知る人ぞ知るワイン名産地の味がイギリスにいながらにして楽しめるかもしれない。

逆に、日本でこれまでより買いやすくなったMade in Britainはなんぞや

貿易協定のお得感は、両国で感じられなければ不公平。日本に住む一般の人々が手に入れやすくなるMade in Britainはなんだろう。

イギリス政府のウェブサイトgov.ukには、うどんやクロマグロ、神戸牛の名前が上がっていた。その他、高級革製品、スコッチ・ウイスキー、豚肉、牛肉、ビスケット、スティルトンやチェダーなどのチーズ、スコティッシュ・サーモン、ウェールズ・ラムなども手に入りやすくなという。ガッツポーズが出るほど喜んでいいものかどうか、微妙なラインナップだ。神戸牛を売ってアンガスビーフを買うというのはどんなものなのか、いつか牛肉好きに聞いてみたい。

新しい形の日英同盟?

変わるのは日々の食卓に関わることばかりではもちろんない。協定にはデジタル貿易分野での協力も含まれている。テクノロジーの世界では少し遅れをとってしまった感のある日本だが、「両国が協力関係を結ぶことで世界を牽引する存在になるだろう」(と、トラス国際通称大臣が言っていた)。

両国が今後、具体的にどのような恩恵を受けることになるのかは、これから徐々に見えてくるだろう。それがなんであれ、在英日本人としては生まれ育った国と住んでいる国が仲良くしてくれるのは大変喜ばしい。今のご時世、互いの経済成長に貢献しあえるというのはなんとも心強い話だ。偶然のタイミングだったとはいえ、新型コロナウイルスの影響でボロボロになってしまった両国の経済の立て直しにも、大きな弾みとなることが期待されている。