大規模宇宙開発や他の惑星への移住など、かつてはSFの世界でのみ存在していた夢物語が、実はそう遠くない未来に実現してしまうかもしれない。イギリスの大衆紙ミラーが伝えた。

1969年にアポロ11号が人類史上初の有人月面着陸に成功して以来、景気の良し悪しにかかわらず、いくつかの先進国は宇宙旅行、はたまた宇宙移住を夢見てその実現に多額の投資をしてきた。


宇宙旅行や移住が可能になったとして…

Gナントカの重力を耐えるための厳しい訓練を積まずに誰もが気軽に乗れる宇宙行きロケットが完成したとしよう。日本までファーストクラスで里帰りをするよりも少し高いぐらいの値段で火星に行かれるようになったとして、ロケットから降りたらどこに落ち着けばいいのか?

その答えは「スタークリート」。火星に家を建てる資材の研究をしている、マンチェスター大学の科学者たちの汗と(文字通り)涙の結晶だ。


火星に家を建てるための主要な材料は、
スーパーで入手可能なアレだった

「スタークリート」は一体何で出来ているのか。さぞかし複雑な資材や薬品が必要になるのだろうと思いきや、なんと、その主要な材料は「ジャガイモ」なのだという。火星にジャガイモ製の住まいを建てるなど、何やら出来の悪いSF映画のようだが、あながちそうでもないらしい。普通のコンクリートが32MPa(メガパスカル:圧力の単位)のところ、スタークリートは72MPaだというからその強度はかなりのものといえるだろう。

スタークリートの研究をしている科学者チームによれば、ジャガイモのデンプンに、微妙な割合で宇宙塵と塩などを混ぜて作る結合剤が鍵とのこと。

彼らの試算によれば、乾燥デンプン25キロで213個のレンガができるという。地球上で一般的な家を建築するのにおよそ7,500個のレンガが使われるので、かなりの量のデンプン粉が必要になる。


ジャガイモにたどり着くまでの道のり

火星の建築資材の材料としてジャガイモのデンプンが有効であることを発見するまで、血液、唾液、涙、尿などさまざまな液体が試された(中には公言したくないものも含まれているらしい)。また、塩は火星のもの、涙は宇宙飛行士のものであればより強度が増すというが、ホント?

結合剤として、鋼よりも強靭だと話題だった「人工クモの糸(ちなみに、現在日本でも開発が進んでいる)」が使用できるかどうかの実験を行っていた時期に、偶然、牛の血液から取ったタンパク質の方が安くて効果が高いことを発見。しかし、そのために牛を火星に送るのはあまり現実味がないので、人間の血液から「ヒト血清アルブミン」というタンパク質を取り出して使ってみたところかなり良い結果が得られたという。「僕らの研究のためなら喜んで献血をしてくれる人はたくさんいたけれど、火星に家を建てるのに使うとなると、話は別のようだった」と、開発チームの1人は笑う。

唾液も昔から糊の代わりに使われてきた結合剤の有効成分だが、研究の結果、唾液にはデンプン質関連酵素であるアミラーゼが含まれており、その働きが結合剤に良いこともわかった。

万里の長城の建設に使われたモルタルにはもち米のデンプン質が含まれていたという事実もある。

つまり、鍵は「デンプン質」にあったのだ。これで万里の長城が建ったのなら、宇宙用レンガが作れない理由はない。


「スタークリート」の展望

デンプン質自体は宇宙飛行士用の食料として造られることになっているので、スタークリートのために新しいテクノロジーや機材を揃える必要はない。つまり、このミッションを簡素化及び安価にするという点においては、より現実味が帯びてきた。

スタークリートが成功したら、火星だけにこだわる必要はなく、コンクリートに変わるレンガとして地球上でも需要が出てくるだろう。

開発チームの1人はいう。「コンクリートの製造で排出される炭素は世界全体の8%を占めている。環境にやさしく、サステナブルなスタークリートのようなバイオマテリアル(生体材料)の実用化は、地球にとってもコンクリートに代わる有益なオルタナティブとなるだろう。」


自家製も可能!

スタークリートを作るには、デンプン以外の材料(類似火星塵含む!)もAmazonなどのオンラインショップで購入可能なものばかり。作り方はYouTubeでも紹介されているので、興味のある方は試してみては?特別な機材も不要なので、実験的に独自の材料を追加してみたら、案外宇宙で最強のレンガが出来てしまうかもしれない(なんて…)。

火星が極寒で大気が薄いことについては、また別の科学者に解決してもらおう!