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February 22, 2005

職場の個人主義 <駐在員編>

chuzaiin.gif 英国の役所で初日を迎えて最初に驚いたのは、席を空けている同僚の電話が鳴っても誰も取らず、放って置いていることです。

 日本で昔、新人として仕事を始めた日、最初に覚えさせられたのは電話の取り方でした。自分が配属された係の電話は、上司である係長と共有していますが、電話が鳴ったときにまず取るのは新米の仕事で、適当に処理するなり、係長に転送するなりしなければなりません。また、さらに上司の課長補佐や課長は個別の電話を持っていますが、これらの人々が席を空けていたり、あるいは打ち合わせをしている最中にかかってきた電話は、上司に代わって応対し、伝言を残す必要があります。電話をかけてくる方は、誰かが取ってくれると思っているため、いつまでも鳴らし続けます。忙しいときは、三つ、四つの電話が引っ切り無しに鳴り続け、右手と左手で同時に二つ受話器を持って応答するようなこともありました。

 このように、日本では重要な業務だった電話番ですが、英国では、同僚の電話が鳴っていても皆知らぬ振りをしています。これには最初とまどいましたが、自分にとっては助かる慣習でもありました。英語でかかってきた電話にきちんと対応するのはけっこう大変なことで、自分にかかってきたものであればともかく、他人宛ての電話について、用件を聞き間違えたりしたらどうしようなどと心配だったからです。

 英国の役所で、日本と違って他人の電話を取らない理由は、三つあると思われます。まず、日本と違って、職員が平日でもいきなり休みを取っていたりすることがよくあり、席を空けていることが多いので、いちいち他人の電話を取っていては面倒でやっていられません。また、英国では、各人の持ち場がはっきり分かれており、隣の人がどういう仕事をしているのか全く分らないということが少なくありません。そのため、隣の人の電話を取っても、ほとんど意味のある応対ができないということがあります。

そして、最も単純かつ根本的な相違ですが‐英国の役所の電話には、日本のそれと異なり、留守電機能がついているのです。(日本でも、民間の会社では、今時当たり前かもしれませんが。)さらに良いことには、内線電話でかかってきた時には、かけてきた相手の名前が直ちに表示されます。ですから、電話をすぐに取りたくない相手からかかってきたときには、席にいてもあえて無視して、留守電に入れてもらうといったこともできます。日本でこれができれば、どんなに良かったかしれません。

 日本にいるときに仕えていたある局長からの電話は、常に「悪しき知らせ」「不幸をもたらすもの」であり、できれば取りたくないものでした。いずれにせよ、以上のような、電話の応対についての相違は、ある意味、日本と英国の職場文化の違いをも象徴しています。日本では、仕事の進め方がチーム、組織重視であり、他人の電話も自分の電話であるかのように対応することが当然であるのに対し、英国では、仕事が極めて個人ベースで行われています。同じチームに属している同僚でさえ、それぞれ独立して業務を行っており、お互いに依存し合うところはあまりありません。こうした個人主義は、組織としての能力を低める面はありますが、個々の職員にとっては、他人を気にせずに早く帰り、休みをとれるということを意味します。この、組織主義と個人主義の対比こそが、日本と英国の職場の特徴を物語る核心であるように思われるのです。

投稿者 lib : February 22, 2005 03:37 PM

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