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May 19, 2005

日常の危機管理 LiBホームページへ

chuzaiin.gif  最近、何人かの仲間と共に、Maida ValeのPaddington Groundで休日にテニスをしています。この季節、広々とした公園の中で体を動かすのは爽快です。夏の間は日の長さを活かして、平日の夜に仕事の終わった後テニスをすることも可能ですが、日本ではまず考えられない生活です。スポーツをして汗を流した後は、パブでのビールが最高です。折角運動したのにビールなど飲んでは意味がないかもしれませんが、これがなければもともとやる気がしません。
 先日も、いつものように4人でテニスをし、その後パブに行くことになりました。4人のうち私とYさんが車で来ており、公園内に停めてあったYさんの車にとりあえず皆乗り込みました。少し離れたSt. John's Woodにあるパブに行き、日の当るテラスで白ビールを楽しみます。ここまでは素晴らしい日曜日です。ところがこれから事件が置きました。
 Yさんに、自分の車の近くで降ろしてもらい、乗ろうとしたところ、はたと気付きました。ラケットとバッグがYさんの車のトランクの中に入れっぱなしだったのです。ラケットなどどうでもよいのですが、バッグには携帯電話と、さらに重大なことに、自宅の鍵が入っていたのです。私のフラットは、休日はポーターがおらず、このままでは、家に入ることさえできません。Yさんの車はもう走り去ってしまっています。公園の脇で、爽やかな風が吹き陽光が照りつけるのどかな情景と、自分の置かれた危機的な状況とのミスマッチに、妙な違和感を覚えます。携帯があれば、Yさんの車に同乗しているWさんに電話すれば(Yさんの電話番号は知りませんでした)直ちに解決ですが、携帯もバッグと共に去ってしまっています。悪いことに、Wさんの電話番号を記憶していないので、公衆電話からかけることもできません。家にさえ帰れればもちろん、電話番号はすぐに調べられるのですが、鍵と携帯を同時に無くすことがどれほど効果的に行動の自由を奪うかということを痛感しました。
 さて、この場で悩んでいても仕方がなく、これからどう行動するかを考えなければなりません。人間、ピンチに陥ったときほど、まずは冷静に頭を働かせることが重要だということは日頃から自分に言い聞かせています。手元には、もちろん車の鍵はあり、また、パブに行くときに身につけていたので財布はあります。したがってとりあえず移動手段と金には困りません。まず考えたのは、車でYさんを追いかけることです。しかし、まだそう遠くに行ってはいないとはいえ、どの道を通っているかもわからないものに追いつくのは至難の技です。こういうとき、やみくもに動くのはよくありません。まずは考えることが大切です。
 ここから、心理ゲームが始まります。Yさん達がいつこの事実に気付き、そのときどのように行動するか。より重要なのは、相手が、自分がどのように行動すると予想するかです。ひとつの選択肢は、この場で待つことです。彼等がすぐに気付けば、おそらく引き返してくるでしょうし、その場合、私が合理的な人間であれば、その場を動かずに待っていると、彼等は予想するでしょう。しかし、彼等がそうすぐに気付くとは思えません。彼等が最初に気付く機会はおそらく、途中で同乗しているWさんを降ろすときです。運が悪くそのとき気付かなければ、Yさんが家に帰って初めて気付くということになるでしょう。
 とりあえず、まずは自宅へ向かうことにしました。例え家に入れなくても、こういう非常時にはまず本拠地の近くに戻った方が、何かと有利です。また、バッグの中には携帯が入っているので、彼等がそれを見れば、私に電話で連絡を取ることができないことがわかるはずです。その場合、彼等は親切な人達ですし、私の自宅の位置もおよそわかるはずなので、自宅にバッグを届けに来てくれる可能性が高いと思われます。Wさんの家はこの場と自宅の丁度中間にあるので、彼等がWさんを降ろした時にバッグに気付き、そのまま私の自宅に向かったのであれば、彼等のほうが先に到着していることも考えられます。
 そして自宅前まで戻りましたが、さすがに彼等が既にそこで待ってくれている、というラッキーな展開にはなりませんでした。さてどうしたものか。家にも入れませんし、誰かに助けを求めようにも、誰の電話番号もわかりません。唯一わかる自分の携帯の番号に、公衆電話から電話してみます。彼等がバッグの中の携帯を見つければ、私がそこに電話をかけることを予測して、着信を待っているかもしれません。しかし、残念ながら通じませんでした。
 ではどうするか。歩いて数分の場所に友人のOさんの住むフラットがあり、危機の際にはまず最初に頼るべき所です。フラットのポーターから電話してもらったところ、幸い彼女は部屋におり、さすがに急に押しかけたので驚いていましたが、10分くらいしたら下に降りてきてくれるということでした。彼女はWさんを直接は知らないようですが、何人か人をたどれば、Wさんの電話番号がわかるかもしれません。彼女が降りてくるのを待つ間、頭の中で電話連絡網を組み立てていました。もちろん、その鎖の中の一人でもつかまらなければ、通信は途切れてしまいます。しかし、その時名案に気付きました(もっと早く気付くべきでしたが)。インターネットに接続できれば、自分のメールアカウントにアクセスすることができ、そこにあるWさんからのメールを見れば、彼女の電話番号が一発でわかるはずです。これで解決の糸口が見えて、一気に気が楽になりました。
 そして、OさんのPCでインターネットにアクセスさせてもらい、(いまどき)ダイアルアップ接続だったのでページがなかなかうまく表示されずひやりとしましたが、結局首尾よく電話番号を見つけ、Wさんとついに連絡をとることができました。すると予想通り、彼女達はバッグを見つけ、私の自宅へ届けに向かってくれている途中ということでした。
こうしてめでたく、自宅前でYさん、Wさんと感動の再会?を果たし、自宅のすぐ前のパブで祝杯を挙げることとなりました(当然、ここは私のおごりです)。
今回の一件を通じて、危機は身近なところに転がっており、日常的な危機管理が重要であることを改めて実感しました。Yさんの車の中にバッグを忘れたのは全く間抜けでしたが、例え気をつけていても、バッグをひったくられたりすれば、いつでも同じ状況に追い込まれてしまいます。
携帯を失うと、そこに入っている電話番号も一挙に失ってしまい、いかに携帯に依存しているかを痛感する、というのはよく聞く話です。大切な電話番号は、手帳や自宅のPCにも保管しておくというのは定石ですが、今回のような場合、それらにアクセスすることもできません。今回役に立ったように、インターネット系のメールアカウントは、何処からでもアクセスできる情報源として有効で、主要電話番号を書いた自分宛てのメールを送っておくというのは有効な防御手段かもしれません。そうすれば、街中のインターネットカフェからでも調べられるわけです。
 鍵についてはより難問です。常時ポーターがいるフラットに住んでいれば、鍵を無くしても家に入れないという心配はありませんが、そうでない場合は、何らかの手段で自宅の外に合鍵を保管しておくことが必要となります。近所の信頼できる友人に託しておくというのは良い方法ですが、常にその友人がつかまるとは限りません。自宅の外で、24時間365日自分が手ぶらでアクセスでき、かつ他人に盗まれる心配のない場所−何か名案はないものでしょうか?(自分についてはとりあえずひとつ思いつきましたが。)公園の木の下に穴を掘って埋めておく、というのも手かもしれませんが・・
また、今回は、危機といっても実際にはそれほど大したことはありませんでしたが、さらに追い込まれた状態—例えば、自宅の鍵と携帯に加えて、車の鍵も財布も無かった場合—にどう行動するか、事前にいろいろとシミュレーションしておくことが、いざというときに冷静に対処するために重要と思われます。

投稿者 lib : May 19, 2005 04:33 PM

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