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September 21, 2006
ウォータールー・アンド・シティ・ライン
「匠(たくみ)の国」から来た日本人にとって、イギリスの「物が壊れる」「物が直らない」「物を直すのにものすごく時間がかかる」のはカルチャーショックのトップ項目ではないだろうか。
日本から10数時間のフライトを終え、疲れきった身体でフラフラと飛行機から降りて、ヒースロー空港の建物の中に進む。
で、最初に目に飛び込んでくるのが「動く歩道」の「故障中」のサインである。
「あー、またか」という思いと同時に、久々に帰宅して古女房から、「おかえりなさい」と気だるく迎えられているような気分になるものだ。(古女房の部分は想像です)
先週、ウォータールー駅とバンク駅をつなぐ、「ウォータールー・アンド・シティ・ライン」の改修工事が終わった。たった一駅、4分間の路線である。4月から始まった工事の「予定期間」は5ヶ月。9月の「初め」に工事が完了すると公示されていた。
「9月1日、再開通!」ではなくて、「9月の初め頃に、たぶん、できるかも・・・(予定)」みたいな曖昧さは日本人には受け入れがたい。
「9月が予定なら、11月ごろに完成か?」
「ま、今年中に乗れれば、『良し』としようか」と利用客の声。
というのも、数年前、バンク駅の動く歩道の修理には延々と時間がかかったからだ。
トロッコ電車のようにガタンゴトンと動き、ときどき石につまずいたようにガタンと盛り上がるのが少しスムーズになった。(100%ではない)それから、手すりのベルトの速度と歩道の動くスピードが微妙に違うので、ときどき手の位置を調整しないと、手と身体がうーんと離れてしまい、ストレッチ運動を余儀なくされていたのが改善された。(100%ではない)
なんせ「先進国」の「首都」の「ビジネス地区」の「メジャーな駅」に存在するのが間違っているようなシロモノだったのだ。
しかし、数10メートルの動く歩道を直すのに確か1年以上かかったはず。他にどこを直したのか知らないが、あれだけの時間がかかった理由は謎だ。
それで、シティの勤め人の間ではなんとなく、
(9月初旬予定なら、実際の完成は11、12月ごろ)と暗黙の理解があった。
すると・・・。
あーら、びっくり。9月に完成した。1週間遅れだったらしいが、すごい、すごい(イギリスの基準にしては)。
「できるものなら、やってみろ」と馬鹿にしていた2歳児にイナバウワーの演技を見せられたような衝撃である。・・・やれば、できるじゃん。
新聞によると、このウォータールー・シティ・ラインは1日に4万人が利用して、日本円なら2億円の売り上げがあるそうだ。 (ちょっと、眉唾。 イギリス人は「総工費10ミリオンポンド」で「6ヶ月で竣工」して「年間売り上げ予想120ミリオンポンド」みたいな話を平気でするのよね、根拠もなしに)
で、1日開通が遅れれば2億円の損失(?)ということで、この工事を落札した建設会社に1日1億5千万の「工事遅滞罰金」を科したという。
そうか、そういうトリックだったのか。
イギリス人でも競争させたり、罰金があったりすると、いつもは引き出しに隠してある「効率性」とか「段取り」とか「確認作業」とか「残業(引き出しの一番奥にある)」を出してくるらしい。
日本ではこの手のものは無料でついてくるが。
新装再開通のウォータールー・アンド・シティライン、なぜか新しいペンキやコンクリートの匂いはしない。なんだか地下牢から流れてくるようなよどんだ空気である。もしかすると、古い壁に穴を開けたとき、埃とかカビ、あるいは「人柱からの邪気」が出てきたのが浮遊しているのかもしれない。身体に悪そうだが、ずっと息を止めておくわけにもいかないし。
これで喘息になった場合、通勤時に罹患したということで「労災」に認定されるだろうか?
しかし、ローラーコースターのような揺れはなくなった。(100%ではない)
今まで(この激しい横揺れ、いつか脱線するかも)と心配しながら乗っていたのだ。
一度、アナウンスで
「電車に少しトラブルがありますが、とりあえず出発します。事故は起こらないと思いますが、座席に着くか、つり革にしっかりつかまっていて下さい」と言ったきり、びびった乗客に降車する間も与えず、扉が閉まり発車したことがあった。
乗客はちびまる子ちゃんのように斜線が入った真っ青な顔でお互いを見つめあい、恐怖の4分が過ぎて無事、バンク駅に到着すると、へへへ、とほっとした笑いを交わしたのだった。
通勤客をおどすなよ。
投稿者 lib : September 21, 2006 09:51 AM
コメント
いつも、そうだそうだと、うなずきっぱなしの素敵なblogを楽しませてもらっています、ありがとうございます。
本日帰路、ひとつ実験してみたくなりました。揺れなくなった新生Waterloo City Lineで、つり革(ロンドンでは釣り玉(失礼)とも言いますね)に一切つかまらずに、Bank から Waterloo まで、自立のまま4分間、人様に迷惑かけずに過ごせるか?
投稿者 live-in-putney : September 22, 2006 08:43 PM
電車の揺れに女がよろめくと、その華奢な身体を男の腕が力強く支えた。
「大丈夫ですか、お嬢さん」
「ええ・・・」
パトニーに住む女は恥ずかしげに目を逸らす。
「もしよろしければ、ワインバーにお誘いしたいのですが・・・」
男の涼やかな目には情熱が秘められている。
このように進むものと期待して、続編をお待ちしております。
投稿者 十貴川洋子 : September 25, 2006 02:25 PM
抱腹脱帽、ぜひ芥川賞狙ってください。ちなみに私は女でもなくおかまさんでもなく、華奢でもありません。涼やかな目ももたない、だだのでぶの中年、重心の具合は相撲取りなみもしれませんので、今度試験してご報告をばいたします。
投稿者 live-in-putney : September 27, 2006 11:06 PM
ちっ、性別を間違っていたか・・・。失礼しました。 では、改めて、
ウォータールー・アンド・シティ・ライン。扉の傍らに佇む日本人の男の横顔に女は目を奪われる。
(パトニーで時折見かけるあの人だわ)
異国の男に心を乱される息苦しさを女はよどんだ空気のせいにした。
女の狂おしい思いも知らず、男は無表情に暗いトンネルを見つめるだけだった・・・・。 (完)
投稿者 十貴川洋子 : October 2, 2006 11:08 AM