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January 21, 2008

羊とロバ 3

mama.gif

という訳で、思いっきり間延びしましたが、昨年の話の続きです。


インターネットで羊のコスチュームを探すと、思いの他いろいろと見つかった。
その中で、納得できるデザインと値段のものがあったので、それを注文。

カードで支払いをし、無事完了。しばらくして注文の確認メールを受け取った。

「この度はご注文ありがとうございます」

はいはい、定型通りの確認メールだな。

「カード決済の支払先は、‘Wild★Night’と記載されます。」

…はい?

羊コスチュームを探すのに夢中で会社名までよく見ていなかった。
子供用品を売る店かと思っていたが、どうやら「大人のコスチューム」が専門の店だったらしい…。

ふと心配になった。
私の夫は会社員でないので、税金の申告は毎年、会計士にまかせている。という事は、申告時には会計士に一年間の銀行明細を全て預ける。

夫の銀行明細に記載された‘Wild★Night’という支払先を見て見ぬふりをしつつ、プロフェッショナルとして仕事に徹する会計士と、その横で
「ち、違うんだ、これは子供の劇で… 息子が羊になって…」
と聞かれてもいないのに、あたふたと墓穴を掘る夫の姿がまざまざと浮かんだ。
しかしもう後戻りはできない。
会計士に夫婦の趣味を誤解される位で、可愛い息子の羊役を応援できるのなら安いものだ、ええどうぞ誤解してください、と一人PCの前で開き直る私であった。

まあ、そんなこんなでいろいろあったが数日後、無事に羊コスチュームが自宅に届いた。
送り主が、なぜか‘Fancy★dress’となっている。
そんな、いらん気遣いをするのなら、銀行引き落とし用の社名も変えんかい、と小包につっこみを入れつつも、学校にコスチュームを持参するように指定された日にはあと4日ある。
やれやれと、ほっと胸をなでおろした。

なでおろしたのも、つかの間。
次の日、息子が学校から帰るなり

「僕、羊じゃなくてロバになったんだ」

と明るく宣言するではないか。

「え?ひ、羊じゃなくなったの?どうして」

「ロバ役の子がロバじゃ嫌だって泣いたんだ。それで先生が、『誰か代わりにロバになりたい人いる?』って聞いたから、僕が手を挙げたんだ。ロバの方が面白いよ」

息子は上機嫌で、“Carry Mary all the way~”と歌を歌いながらロバ役の踊りをし始めた。
どうやら、妊婦マリアをベツレヘムまで運ぶロバ役らしく、短時間だが脚光をあびる場面があるらしい。
確かに草を食べているだけの(決め付けているが)羊よりも面白そうだ。

息子もやる気満々になっているし、まあロバならロバでもいいのだが、問題はコスチュームだ。
学校に持参するように指定された日まで、あと3日しかない。
もう一度ダメ押しでWild★Nightに注文しようかとも思ったが、まあとりあえず先生に確認するのが先決と、次の日を待つことにした。

翌朝、先生に聞くと、先生は
「ああ、コスチュームのことがあるものね。○○、(元祖ロバ役の子の名前、以下、元ロバ)本当にやりたくないの?」
と元ロバに聞いた。元ロバは少し考えた後で
「僕、ロバやる~…」
と、また泣き出した。

息子は先生と元ロバのやり取りをじっと聞いていた。
まずいな…ロバ役をゲットし、あんなに喜んでいた息子がゴネるかと思ったが、意外にも
「OK…」
とポケットに手をつっこみながらあっさりと引き下がった。
家にいる時とは違う、そのあまりの諦めの良さに驚いた。ぬか喜びをして可愛そうだったな、という気持ちと、でも外では割と大人の対応をしているんだな、と少し誇らしい気持ちが微妙に入り混じり、学校を去った。

さて劇の当日。
ステージの上で、息子はきちんと羊になっていた。

これが親ばかというものだろうか。
単なる「その他大勢」の息子にスポットライトが当たっているかの様に、彼しか目に入らない。
劇には全学年の子供達が参加していて、確か45分くらいの長さだっただろうか。
一番年下の、5歳の子供達にとっては長丁場だ。
予想通り、羊はあまりやることがなく、息子は後半はかなり飽きてきてだれてきているのが分かった。
活発な彼にとってはTortureの様なものだったかもしれない。

しかもイギリスの学校は暖房がかなりきいていて、冬もただでも暑いのに、フリースで覆われた羊コスチュームと帽子をかぶった息子の頬は真っ赤になってきている。
ホール内は子供を見に来た両親達で埋め尽くされ、満員御礼。熱気でむんむんしている。
ふと気がつくと、息子の隣にいる「牛」役の子は、牛のコスチュームの前を全開にはだけていた。団扇を持たせたら立派な「真夏の宵の縁側おやじ」状態だ。
それでも息子は帽子も脱がず、顔を真っ赤にしながら殆どただ座っているだけの「羊役」を全うした。
ばか親の私は、涙が出てきた。


…それにしても、あまり考えたこともなかったが、聖母マリアは大変だったな。
今まで、
「キリストは、馬小屋でお生まれになりました」
と言われても、
「はあ、そうでしたか」
くらいにしか思わなかったが、身重の体で長い旅路を連れ回され、ベツレヘムでは宿屋という宿屋に断られ、あげくのはてに馬小屋で出産…そんな衛生状態の悪い場所で…
出産を経験した今は、別の見方をして涙がちょちょぎれそうになるのであった。

ちなみに他の子のコスチュームはそれぞれ工夫しており、「羊飼い」役の子は頭にティータオルをのせて紐で縛るのがお約束の様だった。他の羊役の子は白い長袖Tシャツに白いズボン、耳だけお手製らしきものを付けていたが、きちんと羊になっていてお母さんのイマジネーションに感心した。
とはいえ、やはり動物役には手作りの限界があるらしく、大方の子は既製品のコスチュームを着ていた。特に先述の牛くんの頭は異常に大きくできており、(本体からつながったフードをかぶり、頭の上に牛の顔がのっかる様にできている)牛くんの苦労が偲ばれた。前をはだけてあぐらをかきたくなる気持ちも分かる。

息子は劇が終わった後はその満足感からか、絵本などで羊の絵を見ると
「あ、僕だ」
などと言い、遅ればせながら羊としての自覚に目覚めてきたようである。

そして、泣き虫の「元ロバ」くんとは、その後親友になったらしい。

投稿者 lib : January 21, 2008 11:23 PM

コメント

羊のコスチュームを探しているのですが、ブログで書かれていたコスチュームはどこで購入されたかもう少し詳しく教えていただけますか?

投稿者 デイサービスセンターむべの里 : December 1, 2009 08:48 AM

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