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July 24, 2010
イギリスのサービス業 Hの巻 1
私は椅子が欲しかった。
シンプルで、場所をとらず、とびきり座り心地のいい椅子だ。
ひとつでいいのだ。いくつかの家具店やオンラインで探した結果、ミニマリストのミドル・クラスの御用達、Hのオンラインで理想的と思える椅子を見つけた。
椅子は座り心地が命。トッテナム・コート・ロードのショップで実際に座り心地を確かめ、購入を決めたが、買い物帰りで荷物が多かったので、オンラインで注文しようとその日は家に帰った。
オンラインで目当ての椅子をバスケットに入れ、支払いをしようとしたが、椅子の値段は100ポンド位なのに、なぜかTotalが150ポンドになっている。
内訳を見ると、デリバリーに50ポンド請求されていた。
100ポンドの椅子一つに50ポンドのデリバリー代?
言っておくが私はロココ調装飾な椅子とか、取り扱い要注意のガラスの椅子を注文したわけではない。いたってシンプルな軽い椅子、たった一脚だ。
トッテナム・コート・ロードは自宅からバスで一本で行けるし、現に以前、折り畳みの椅子を買ってバスに乗って帰ったことがある。
今回の椅子は折りたたみ椅子ほど軽量ではないにしろ、空いている時間帯なら椅子ひとつ位楽勝だ。
店に行き、目当ての椅子のそばに立って店員の助けを待ったが、客もそれほどいないにもかかわらず誰も来ない。しかたなく遠くの方でお喋りしているゲイっぽい店員2人に近づいて、「ちょっといいかしら」とヘルプを求める。
外国人アクセントのゲイ店員1(以下ゲイ1)に、
「この椅子が欲しいんだけど、今日持って帰れるかしら?」(もちろんYesだろ。椅子ひとつだもの)
と聞くと、
「No, オーダーして、7日~10日後に受け取ることができます」
と言われた。
「えええっこんな椅子ひとつ、在庫がないのお?」
と派手に驚くと、
「ちょっとチェックしてきます」
と彼は消えた。
うん、イギリスの店にしてはチェックに行くだけ感心、と思って待ったが、待てども待てども戻って来ない。
15分ほどして、やっと戻ってきたゲイ1は
「何も在庫がないんだ。」
と申し訳なさそうに言った。
「他の店にないか、チェックしてみるよ」
一生懸命コンピューターをたたくゲイ1。
うん、他の支店の在庫を確認するとは、イギリスのサービス業にしては気がきいている。感心感心。
「うーん・・・Rストリート店にもFロード店にもひとつもないな・・・。でも大丈夫。オンラインで注文できるよ。」
「そうしようと思ったんだけど、たかが100ポンドの椅子ひとつに50ポンドもデリバリー代とられるのよ。だからここに来たのよ。」
「ええ?オンラインでも50ポンドもとられるの?うちの店からデリバリーすると50ポンドかかるけど、オンラインでもそんなにかかるとは知らなかった。」
「・・・・・」
「あっ、この椅子、もう製造中止って書いてある」
「ええ?そうなの?じゃあ、本当は茶色が良かったけど、黒は?」
「(カタカタカタ)・・・・うん、黒ならうちに在庫がある。」
「じゃあそれでいいよ。座り心地がいいから色は妥協する。」
「ちょっと待って。今倉庫に在庫確認してくる」
-再び15分経過-
小躍りしながら戻ってくるゲイ1。
「あったよ、あった。茶色があった。」
「さっき無かったのがなんで突然現れたのかわからないけど・・・まあラッキーだね。じゃあそれをもらうよ。で、どこに?」
「デリバリーする?持って帰る?」
「(話聞いてなかったのかよ) 持って帰る・・・・」
「一度店を出て、ウエアハウスに行って。」
「は?ここでくれないの?」
「申し訳ないけど、ウエアハウスで受け取ることになっているんだ。はい、これが地図。」
やれやれ、時間がかかったけどやっと買えた、と額縁売り場を横目に見ながら出口に向かっていると、チャイニーズ系のゲイ定員2が、’May I help you? My friend?' とお尻をくねくねさせながら近づいて来たので’I'm fine' と早足で店を出る。
店から数分歩いたところのウエアハウスは、重たそうなシャッターが閉まっていた。先ほどの店内とは打って変わった雰囲気だ。
ゲイ1の指南通りに、シャッターの隣のブザーを押して、「椅子を受け取りに来たんだけど」とインターホン越しに告げる。
そのまま真夏の太陽が照りつける路上で待たされた。
-10分経過ー
ガラガラとシャッターの開く音がすると、先ほどのゲイ店員とは打って変わった雰囲気のいかつい男性スタッフが椅子をぽん、と渡してくれた。なんだか不機嫌そうだ。レシートをちらりと確認すると、またガラガラとシャッターを閉めた。
店のシステムに従ってオーダーしていれば彼の手を掛ける必要もなかったのだ。「うちはア○ゴ○とは違うんだよ」とでも言いたかったのだろうか。それとも彼の昼寝の邪魔をしてしまったのだろうか。
-椅子ひとつ買うのに随分な苦労だったな・・・・
それでも家に持ち帰った椅子はやはり座り心地が良く、もうひとつ欲しくなった。
つづく
投稿者 lib : July 24, 2010 11:39 PM