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February 28, 2011

収集癖

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どの職業を持つ人間にも、その道にどっぷりと漬かるうちについた、癖みたいなものがあると思う。

教師7年目突入の私も、教師であるがゆえに染み付いてしまった癖はいくつかある。

そのなかのひとつが変な収集癖。

集めてしまうのはボールペン。

でも、わざわざ買うのではない、基本的にはもらい物のボールペン。

何かの景品で貰ったり、研修先で貰ったボールペン、さらには郵便受けに入っていた保険やさんやチャリティ団体のパンフレットについてくるボールペンまでも、すかさずストックしてしまう。

それもこれも、、、全ては生徒たちのため。

いや、、、私の余計なストレスを減らすため?

というわけで、事情を説明しよう。

実は、私の学校ではペンすら学校に持ってこない子供がいる(といっても多いときでクラスに2-3人)。

しかも、そういう生徒が年々増えているように感じる。大体9年生くらいにそういう子が多い。気が一番緩む学年だ。

私の勤務校は東ロンドンにある公立の女子校。学区もロンドンで一番低所得者層の多く住む地域にある。

じゃあ、その子供たちはボールペンが買えないほど貧しいのか、、、?!

いやいや、そんなことはない。ペンを持っていなくとも、彼女らのかばんとポケットにはちゃーんと携帯電話やMP3プレーヤーが常駐している。家にはもちろんコンピュータがある。MSNやFacebookは彼女たちの庭。

このペンすら持って来ない風潮。これは、単に彼女たち自身の「常識」と「向学心」の欠如の表れだろう。そしてそれに厳しく対応してこなかった大人たち(学校、親、われわれ教師)の責任でもあると思う。

他の学区、学校ではどうなのか知らないが、私の学校では授業で使う文房具のほとんどを学校が提供する(ということは公立の学校ではこれらのものは我われの税金から捻出されているということだ)。

生徒が使う学科ごとのノート(といっても日本の某文房具メーカーのキャン○スノートの十分の一くらいの質)、のりやはさみ、ポスター用紙、ホッチキス、色ペン、色鉛筆など、授業で使われるものは全て学部、学科の予算で購入し、生徒はペンだけ持ってくれば良いというわけである。

この国で教壇に立ったばかりの頃は驚いた。そういうものは保護者が購入して子供のために揃えると思っていたからだ。低所得者地域である東ロンドンならではの対応なのかと納得していたが、そうでもないらしい。

もちろん、自分で文房具一式持ってくる子もいるけれど、クラスの半数にも満たないのではないだろうか。

私がひたすらボールペンを収集するようになったのも、そういう彼女たちに対応するためなのである。

うちの学部で作ったルールに「文房具一式を持参する」という項目があったが、いつのまにかそのルールも消えてしまった。同僚たちもほとんど匙を投げてしまった。

同僚たちが「余ってるボールペン、常に教室に常備してるんだよね~」という話をしているのを聞いて、最初は「そんな対応でいいものなのか、、、」と思っていた。実際、二回続けてペンを忘れた子には居残りなどの罰を与えていた私。

それがここ一年ほどの間に、私自身も授業の始めにすばやく対応するためにボールペンをあらかじめ備えておくようになってしまった。

たかがペン、されどペン。こうやって規律は乱れていく、、、。教師である私としては情けない事態なわけだが、周りを見ると教師も生徒もこの状況をそう真剣に捉えている様子は見られない。

この問題について由々しきことであると声を大にして問題提起する同僚も最近はほとんどいない。生徒たちも文房具などただの使い捨てのものだと思っている様子が伺える。所有意識もないのか、あっさり持ってきたペンを置いていく生徒も多い。

それにしてもこの風潮を正すためにはどうしたらいいのだろうか。こういうものは、元来、強制し、忘れたものには罰を与えて持ってこさせるものなのだろうか、という疑問もある。

本来なら彼女たちの頭の中に、「授業に必須のもの=ノートとペン(私の学科では教材はこちらが用意する。低学年では教科書の持ち帰りも無い)」という図式がなければならないのに。

ここ数年で生徒たちの「向学心」「子供らしい興味、好奇心」が低下していることは目に見えており、それに対する懸念が同僚との会話でも顕著だ。経済の影響か、家庭環境か、それとも文化の影響か、、、要因は色々なところにあるだろう。

そんな中、皮肉な出来事があった。実は私の学校にはアフリカや中東、アジアの何カ国かに提携校がある。一番交流があるのはケニアと南アフリカにある学校だ。

先月、文房具の不足するケニアの小学校にペンを送ろうという試みがなされ、学校側が生徒から各家庭で余っているペンの寄付を募ったのだ。生徒も何人かがそのキャンペーンに率先して参加した。学年集会では南アフリカ出身の同僚と次回、その小学校を訪問する予定の教師がプレゼンをおこない、その中でその学校の様子などが紹介された。そのなかには顔を輝かせて登校する生徒たちの姿、真剣に学ぶ姿を写した写真などもあった。

これを見ると我が校の生徒たちが恵まれた環境にいることは明らか。ペンすらない環境でも(いや、だからこそか?)一生懸命学ぼうとする子供たちの姿をみて、ペンすら持ってこないほど学習意欲の無い生徒たちは何を思ったのだろうか。

投稿者 lib : February 28, 2011 07:50 PM

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