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December 06, 2011
Kanji
長らく日本を離れて英国なんぞに住んでいると、東京出張の際にどう
しても気をつかう。タクシーのドアを自分で閉めてはいけない、相手
に酒を注がねばならぬ、リフトでは女性を背にして出たほうが無難等
々、意識をせねばならぬことが多々ある。電車で肩がぶつかったとき
に、反射的に sorry と言ってしまい、たいへん嫌な雰囲気をつくっ
てしまうことなどは、海外土着組の共通の課題であろう。日本で20
年生活している英国人の知人を持たぬが、一度、そのような人とゆる
りと酒でも酌み交わしたいものである。差すのを忘れるのは、無論僕
の方であろう。
気疲れなのか時差ぼけなのか、東京で飲むと普段より酔いがまわる。
心地よい睡眠をブレークされた時、それがタクシーの中であることを
理解するのに1秒かかった。2秒後には自分が何処にいるのかを忘れ、
"What did you say?"。3秒後にその失態に気付いたが、あとに戻れ
ずそのまま通し、Thank you といって下車した。乗ったときには”新
富町のなにがしホテルまで御願いします”と函館なまりの日本語であ
ったろう。運転手さんは狐につつまれたようであったろう、まったく
申し訳ないことをした。
こうした海外ボケ防止もあって、なるべく母国語の新聞や小説を読む
ように心がけている。いや、活字中毒ほどは行かぬまでもそれに近い。
成田空港で最新の文芸春秋を手にいれてからバスに乗りこみ、塩野さ
んのエッセイなどを夢中で読みながら、気がつくと一瞬にして都心に
入っている。至福の時間である。
読むぶんにはまず問題ない。プロの文章家の句読点の打ち方に文句を
つけたくなることもたまにはある。だが絶対的に漢字を書けなくなっ
てしまった。いま”一瞬”という単語を使ったが、ワープロのお世話
になっているだけであり、自分の手では書けるのは、”一”の方だけ
である。しかし、その回復とか勉強は、今時間を割けられる分野では
なく、当面は是非もなしと諦めている。壁に貼られた級友の作文かな
にかの流暢な文字をまのあたりにし、こらあかんと諦め、書き文字と
いうものは自分だけが後に記憶をたどれる程度で十分と、勝手に決心
したのは確か小学5年生の時だったと思う。その後幸運なことに、P
Cやワープロというものが出現し、僕の決心を裏付けてくれた・・・
とは思わないが、漢字を書けなくても、いまのところ大いなる不便は
ない。ないが、恥かしい思いをせねばならぬのが、結婚式とか、ホテ
ルのチェックインとか、公衆の面前で漢字を書かねばならぬ際である。
かくして僕にとって、やはり東京はある種の緊張を迫られる場所になっ
ている。
投稿者 lib : December 6, 2011 08:49 PM
コメント
お久しぶりです。日本も大変ですが英国も大変なようですが・・・
娘は震災の時に体を壊し、仕事を辞め、念願の切り絵アーティストとして頑張っています。
toriton-worksで検索していただくと、HPが見られます。
娘の夢はロンドンで個展をすることで、来年3月にロンドンを再訪します。もし、見ていただけるとしたら、ロンドンに持っていかせます。
お時間のある時、みてやっていただけたらさいわいです。
投稿者 野辺 : December 10, 2011 01:29 PM
HP拝見、夢があって良いですね。ご来英時には必ず連絡下さい。
投稿者 Yosh : December 24, 2011 10:39 PM