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July 04, 2007
薄着の季節
初夏である。
薄着の季節がやってきた。私にとっては道徳的ジレンマに陥る時期でもある。
イギリスの女は私たちよりも大きい。骨格だけでなく 「肉づき」がいい。と、いうか、 「脂肪づき」がいい。肩幅が広くて身体に厚みがあるので、トレンチコートやスーツを着せるとパシッと決まるのだが、この 「脂肪づき」のせいで、ウエストが 「ダルマ」。
選挙に勝った政治家なら、思わず目に黒丸を入れたくなる体型だ。
冬のコートを脱ぎ、ジャケットも必要なくなると 「そのまんまダルマ」として歩き回る。
で、乗り物には突然 「妊娠5ヶ月の腹」をした女たちであふれかえるのだ。
私は思いやりのある性格ではないが、小学校の道徳の時間に 「お年寄りや身体の不自由な人には席を譲りましょう」と習っている。それに加えて、 「小さな子供づれやお腹の大きな女性」のために席を立つと、 「徳を積む」ことができて、パライソ(天国)に行けるかもという打算も働くようになった。
さて・・・。
妊娠7ヶ月くらいなら、間違うことはない。
「どうぞ、座ってね」
「あら、ありがとう」
と、席を譲ることができる。
が、5ヶ月くらいの腹は 「微妙な大きさ」である。
つまり、 「妊婦」なのか、 「デブ」なのか悩むのだ。
席を譲られる。
――ラッキー。でも、どうして?
妊婦だと思われたから。
――なんで?
デブだから。
という論理は明白だ。女としてショックだろうなあ。
私のほうも、
(あ、妊婦かな? 席を譲らなくちゃ)
と腰を浮かせながら、
(ちょっと待てよ、ただのデブだったらどうしよう。めちゃくちゃ、傷つくだろうな、彼女。でも、もし、本当に妊婦だったら、私のことを意地悪な女だと思うだろうし)
・・・しかたない、寝たふりをしよう。
と、寝たふりを強いられたりするのだ。
先日も目の前に 「腹デカ」な女の人が立った。腹だけではなくて、全体にしっかり 「大女」である。顔立ちはちょっとスラブ系で東ヨーロッパの出にも見える。
で、このお腹が、また、微妙な大きさ。
彼女はバッグからフルーツケーキを取り出すとパクパク食べ始めた。と、次はバナナを出し、ほおばる。で、今度はクリスプの袋。
妊婦だから 「ふたり分」食べているのか、たんに、 「大食い」で、だからこそデブなのか?
ああー、私には判断がつかないー!
隣に座っているイギリス人の男は紳士風で、さっと席を譲りそうなタイプだが、新聞のクリケットの記事を食い入るように読んでいて気がつかない。
(おやじ、顔を上げろ。君の判断が知りたい)と念力を送るが全然きかない。
(クリケットがそんなに大事なのか? 目の前の女を見るんだ! 見ろ!)
と、天の救いか、間違いようのないスイカ腹の妊婦が電車に乗り込んできて、私はその人に席を譲ったのだった。
この悩みから解放されるために、バッジかなんかをつけてくれないかなあ。
「妊婦です。席を譲ってくださいね」というメッセージのバッジ。
「ただのデブです。妊婦ではありません。運動がてら立っています」のバッジもあると、さらによろしい。
投稿者 lib : July 4, 2007 10:58 PM
コメント
いつも楽しみに読ませていただいています。
仕事中で笑いたくても笑えず、鼻をふくらませて笑いに変えています。
今日も、「徳を積む」ところと、見ろ!で2回鼻をふくらませてしまいました。
投稿者 きなちゃん : July 5, 2007 12:39 AM
「妊娠してなくても妊婦風」の乗客に心を乱されるのは本当です。誰かがお年寄りに席を譲ろうとして 「わしは年寄りじゃない!」と逆ギレされているのを見たことがあります。
「人の親切にどういうつもりだ? じいさん、次の駅で降りろ!」と、ボコボコにしてしまったりすると本末転倒ですし。
「徳を積む」にはむずかしい世の中ですね。
投稿者 十貴川 洋子 : July 9, 2007 10:40 AM