概要

英国の離脱に関わる移行期間が終了した2020年12月31日以降は、EU法の直接の適用は無くなり、英国で企業や個人に適用される法律は全て英国で制定されている国内制定法、及び英国の判例法のみとなりました。その後は、EUの法律が英国法に変換されて同じ内容の法律の適用がされてきましたが、特定の分野においては法律に多少の修正が加えられてきているため、注意が必要です。特に、製品基準や輸出入に関わる法律、国境を越えた活動に関わる法律(例:GDPR<個人情報保護法>)は、必要に応じてコンプライアンスの体制を見直すことが推奨されます。

Brexit後でも、EU加盟国に設立されたクロスボーダーの契約において英国法・英国裁判所を準拠法・管轄とすることには大きな問題はありません。

会社関連

日系企業が英国に子会社を設立する際は、株式会社(Company Limited by Shares)または支店(UK Establishment)が選択されることが一般的です。

Company Limited by Shares: 独立した法人格があり、第三者との契約等の当事者となることができます。親会社である株主の責任は基本的にはその出資額を上限とするため、親会社が当該会社の債務の責任を負うことはありません(ただし取締役が親会社の職務と兼任されている等実質的な独立性が無いことを指し示す事実がある場合にはその限りではありません)。Director(取締役)が最低一名必要ですが、国籍や居住地の要件は会社法上はありません(ただし取締役が英国に一人もいない場合には、税務上のインパクトはあり得ますので、注意が必要です)。Directorは基本的には個別に会社を代表する権利を有するために、Directorの任命には十分注意することが必要です。Directorの義務は制定法であるCompanies Act 2016に記されているものに加え、判例法で規定されているものもあります。日本の親会社の社員が子会社のDirectorを兼任で務めているような場合でも取締役の義務は果たす必要があるために、Directorとなった場合にはその義務を正しく理解することが重要です。設立の際に親会社の情報を開示することは求められませんが、自身の定款や取締役会議事録を準備することが必要となります。閉鎖する際にはある程度のコストと時間がかかります。

UK Establishment: 独立した法人格はなく、第三者との契約等の主体者は本体となるため、UK Establishmentの債務に対する責任は本体が負うこととなります。本体の会社の財務諸表等が広く開示されることが一般的ですので、設立に関しては注意が必要です。閉鎖する際には非常に短い書類を一通Companies Houseに送るだけで可能となります。

英国ではこれらの法人格の設立は書面の送付またはオンラインから行うことが可能です。また年次の情報の提出等に関しては延長が認められることもあります。

 

雇用関連

英国における被雇用者の権利は、一般的には
(1)会社と被雇用者の雇用契約
(2)会社が定める従業員ハンドブック
(3)法令で定められている権利
(4)会社における慣習、に基づいて形作られます。
特に(1)と(2)について雇用関係を結ぶ前にきちんと確認することは、会社にとっても被雇用者にとっても非常に重要です。取締役の任命や雇用に際しては、取締役が従業員としての権利を有するのかどうかを明らかにすることも非常に重要ですので、雇用契約とは別にService Agreementと呼ばれる取締役の任命のみに係る契約書を別途結ぶことが推奨されます。

英国の会社が従業員を解雇する際は(1)適切な理由、および(2)それぞれの理由ごとの適切な手続き、に基づいて行われなければ、不当解雇(unfair dismissal)とみなされます。
適切な理由は以下の通りです:
① 不適切な行為(例:社内規則の違反、犯罪行為)
② 能力不足や欠如(例:必要な資格の不足、病気)
③ 整理解雇(例:部門の縮小または閉鎖)
④ 法的な制限(例:就業可能なビザの失効)
⑤ その他の重大な理由

適切な理由が認められるかどうかは事実関係が大きく関係しますので、解雇の手続きに入る前に事実の調査を行うことが必要となります。雇用開始から2年未満の従業員は不当解雇のクレームを提起する権利を有しません。

EU加盟国からの従業員を雇用する場合はビザ等の必要な手続きを取ることが必要となりますので、対象従業員のステータスを確認することが重要です。

コンプライアンス関連

現在英国の多くの企業では
(1)競争法
(2)贈収賄防止法
(3)個人情報保護法
については違反の際の罰金額が多額になる可能性があることから、次のようなコンプライアンスの仕組みを設けることが一般的です:
① 従業員に対するトレーニングの実施とそのログの記録
② 社内ポリシーの作成と雇用契約の下での順守の義務化
③ 法令上求められるその他の社内文書の作成(例:個人情報保護法においては、社外の個人情報を取得する個人に対する通知の作成)
④ 緊急時の社内・社外の窓口の設置

個人情報保護法に関しては、情報管理者となる会社は英国の当局(Information Office)への登録が必要となる可能性もありますので、注意が必要です。またEU加盟国に居住する個人の情報を処理している英国の会社は、特に代理人の任命と情報漏洩の際の当局への連絡手順の確立については見直すことが推奨されます。

英国で売上高が3,600万ポンド以上のビジネスを行っている企業は、現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)に基づいて、会社のサプライチェーンにおいて奴隷を利用していないことを宣言しなければなりません。

また今後は内部通報制度(Whistle Blowing Hotline等)の整備も求められるようになることが予想されています。加えて当面の間はロシアとベラルーシの取引はUK/EU(及び日本、米国)の経済制裁の対象となる可能性もありますので、当該地域で取引を行っている会社は取引が経済制裁の対象とならないかを確認することが推奨されます。

(協力:Ashurst LLP