Thai Pot (タイ・ポット)

仕事が一段落つくと、無性に美味しいものが食べたくなる。しかも、口を「フーフー」させながら食べる香辛料の効いた料理。そんなときに私の脳裏に浮かぶのが「Thai Pot」の文字。三年前にタイ人の友人に紹介されて以来、すっかりこの店のファンになってしまった。今日もまた私の食欲を満たしに行くことにした。
観光客や買い物客で賑わうコベントガーデンの裏手にこの店はある。周囲には多くのオフィスも混在しているせいか、さすがに平日はサラリーマン客で店はいっぱいだ。入り口では、いつものように店主と店員達が笑顔で迎えてくれた。何が嬉しいかって、この家族的な雰囲気。それ迄の疲れなど一気に吹き飛んでしまう。母親が美味しい手料理を作って待っていてくれるような感じだ。

まずは、仕事の疲れを癒しなさい、とピンク色のマイタイ(Maitai、メニューにはない)を作ってくれた。近くにあるバーで覚えて来たという店員が、是非に味わってみて欲しいとわざわざ作ってくれた。エ！昼間からカクテル？でもせっかくだから、その新作とやらを頂いてみた。「うん！幸せな気分」。とてもフルーティーで口当たりがいいから何杯でもいけそう。しかし、空腹時にはちょっと効き過ぎる。急に身体がポカポカしてきた。早くスターターが欲しいけどまだかな～。

そして、待ち兼ねたスターターのタイ・ポットセレクション(￡11.00一皿に二人分)がテーブルに。鶏肉、牛肉の串焼き、春巻き、揚げシュウマイ(Toong Tong)と揚げワンタンの盛り合わせだ。それぞれの香ばしい匂いに思わずつばをゴクリ。早く食べたいが、肝心の友人は・・・と、そのとき、この匂いを嗅ぎ付けたかのように友人の姿が。良かった。これでやっと食にあり付ける。二人とも揚げシュウマイが大好物なので追加注文(￡5.25)した。ピーナッツソースもいいが、チリソースかプローン(エビ)ソースでさっぱりと頂くのが好きだ。そして、何といってもタイ料理で欠かせないのがトム・ヤム・クン(Tom Yum Goong￡4.95)。柑橘系の酸味がスパイスや魚醤とマッチしたスープだ。このさっぱり感が揚げ物を食べた後にはいい。それに、スパイスの刺激が更に食欲をそそる。そこで、少しボリュウムのある炭火焼牛肉のサラダ(Yam Nua￡7.25)を注文。レモン汁、魚醤、スイート・バジル、タイハーブ四種の調和がとれた優しい味に唐辛子のピリッとしたアクセントの効いたタレ。それがジュウシーな牛肉を包み込んでいるから、堪えられない美味しさ。お昼だからアルコールは控えておこうと思ったが、やっぱりこの味にはタイビール(Singha￡3.50)が欲しい。我慢しきれずについに注文してしまった。

だいぶ空腹感も満たされて来たが、やはり最後は麺類かカレーで締めたい。私は「いつもの、あれ」というと出て来るタイ麺のパッタイ(Pad Thai￡7.00)を、友人は激辛のグリーンカレー(Gang Kiow Wan￡6.75)を注文。私はこの店の大のパッタイファン。何故かというと、他の店に比べて魚醤のクセが強くないこと。それに、魚醤とピーナッツソースをベースに、かすかに感じる甘みと唐辛子のピリッとした刺激がたまらなく好きだからだ。具も豆腐、モヤシ、エビや卵など日本食と共通しているから、日本の焼うどんを食べている感覚なのだ。一方の友達はというと、激辛のグリーンカレーを額に汗して黙々と食べている。あまりに美味しそうなので、それでは私も一口。「何だこれ？」口に入れた豆のようなものをひと噛みした瞬間、プシュっと中から小さな種らしきものが弾け出し、ピリッとした食感と共に口の中に広がった。「エ！もしかして、食べちゃいけないものだった？」。でも、友人は一向に気にしていない様子。店員に聞いてみると、これはピーオブァジンというナスの一種だった。青唐辛子、更に噛んだ瞬間のこの辛味。一瞬口の中は火を吹いたようにはなるが、クリーミーなココナッツ・ミルクが静かにその辛味を和らげてくれるからガンガン食べられる。

この店の料理は、タイ料理独特のクセが強くないので毎日食べても飽きない。それは、西欧人の嗜好に合わせて魚醤の分量を控えているからだそうだ。それで、納得。常連のサラリーマン客が多い理由。彼等って意外と、手頃な値段の美味しいものを知っているのよね。　　（茉）

2006年9月取材